多様な知を含むグリーナウェイの作品

グリーナウエイの映画は、美術、音楽、文学、歴史などの多様な知と密接に結びついている。彼にとっては建築やインテリアも、そうした知のひとつにほかならない。彼の映画における建築的知の応用を最も端的に示す作品が肥年の建築家の腹報である。この映画の主人公はクラックライトというアメリカ人建築家だ。18世紀フランスの建築家エチエンヌ=ルイ・プレーを敬愛する彼は、プレーのドローイング展の監修を依頼され、妻と一緒に口ーマに赴く。しかし彼の腹部は不治の癌に冒されている。病の苦痛の中で、浮気中の妻が自分を毒殺しようとしているという妄想にとらわれた彼は、ついには展覧会の初日に飛び降り自殺を遂げる。この映画では、ボホロ広場やパンテオン、郊外のハドリアヌス帝のヴィラなど、口Iマのさまざまな建築的名所が登場するいっぽう映画のなかで繰り返し言及されるプレーの建築のなかでは、ブラトン的立体のひとつである球体をモチーフにした有名な「ニュートン・メモリアル」が特に印象深い。その球形のフォルムは、ドラマを通じて肥大し続けるクラックライトの腹部と対応している。

建築に主眼をおく

「ニュートン・メモリアル」をはじめとするプレーの作品の多くは、デッサンやプランだけで実物のない「空想の建築物」であるグリーナウェイはそうした奔放な想像力の産物としての建築からしばしばインスピレーションを得ている例えば「ブロスベローの本」ではピラネージが描いた空想的建築のデッサンが、ブロスベローの家のイメージとして引用されている。また「ベイビー・オブ・マコン」においては、物語が展開する架空の建築的空間そのものが作品の主題となっている